◆ はじめに
春になると、どこかへ出かけたくなる。
満開の桜、芽吹き始めた若葉、そして野山を彩る菜の花。長い冬を越えた自然が一斉に目覚めるこの季節には、私たちの心もまた軽やかになるように感じられる。
三重県伊賀市にある「伊賀の国 大山田温泉 さるびの」では、毎年春になると周辺の里山が鮮やかな菜の花に彩られる。中でも「プチ菜の花フェア」は、春の訪れを五感で楽しめる地域ならではの催しとして親しまれている。
一面に広がる黄金色の菜の花畑。遠くに連なる山々の新緑。ゆったりと流れる里山の時間。そして散策の後に待つ温泉のぬくもり。
そこには有名観光地の華やかさとは異なる、どこか懐かしく、心を静かに満たしてくれる春の風景が広がっていた。
今回は、大山田温泉さるびので開催されたプチ菜の花フェアを訪ねながら、伊賀の里山に息づく春の魅力を紹介したい。

大山田温泉さるびのとは
「伊賀の国 大山田温泉 さるびの」は、三重県伊賀市上阿波にある日帰り温泉施設である。豊かな森と里山に囲まれた静かな環境の中で、温泉・食事・買い物・体験・アウトドアを楽しめる複合型施設として親しまれている。
温泉の泉質は、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉。無色透明でやわらかな肌触りが特徴で、入浴後は肌がすべすべになることから「美人の湯」としても人気を集めている。源泉温度は約35℃で、源泉かけ流し風呂も備えられている。
浴場は石造りの「ささゆりの湯」と木の香漂う「けさんの湯」が男女日替わりで利用される。露天風呂やジェットバス、ミストサウナのほか、伊賀地方の酒文化をイメージした酒樽風呂や升風呂など、個性豊かな湯船が並ぶ。さらに、大山田で発見されたワニやゾウの足跡化石を模したユニークな露天風呂も設けられており、温泉そのものに遊び心が感じられる。
館内には地元農産物や特産品を販売する直売コーナーがあり、採れたて野菜や伊賀の名産品、手作り惣菜、和菓子などが並ぶ。大山田特産の菜種油「七の花」も人気商品のひとつである。また、お食事処では伊賀米や地元食材を活かした料理が提供され、温泉とともに伊賀の味覚を楽しむことができる。
さらに施設周辺にはオートキャンプ場やバーベキュー施設、ゲートボール場なども整備されており、家族やグループで一日中楽しめる環境が整っている。季節ごとの自然も魅力で、春には菜の花や桜、秋には紅葉が里山を彩り、訪れる人々の目を楽しませてくれる。
温泉に浸かり、地元の味を堪能し、自然の中でゆったりと過ごす。そんな贅沢な時間を気軽に楽しめるのが、大山田温泉さるびのの大きな魅力である。特に春の「プチ菜の花フェア」の季節には、一面に広がる菜の花と里山の風景が訪れる人を優しく迎えてくれるのである。
| 名 称 | 伊賀の国大山田温泉さるびの |
| 所在地 | 三重県伊賀市上阿波2953 |
| TEL | 0595-48-0268 |
| 定休日 | 毎週火曜日(祝日の場合は営業、振替あり) |
| アクセス | 名阪国道「中瀬IC」または 「下柘植IC」から車で約20〜25分 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 伊賀の国 大山田温泉 さるびの |
プチ菜の花フェアを訪ねて
春の陽気が里山を包み込む頃、大山田温泉さるびの周辺では恒例の「菜の花フェア」が開催される。その期間中でも、菜の花が最も美しく咲きそろう時期にあわせて催されるのが「プチ菜の花フェア」である。一般社団法人 大山田農林業公社が中心となって開催する春の特別イベントで、毎年多くの来場者でにぎわう。
会場となるのは、大山田温泉さるびのに隣接する大山田農林業公社周辺の菜の花畑。一面を鮮やかな黄色に染める菜の花を眺めながら、里山の春を満喫できるのが最大の魅力である。
フェアでは、大山田の特産品である伊賀産菜種油「七の花」の販売が行われるほか、買い物を楽しみながら参加できる抽選企画やチャレンジイベントなども実施される。また、会場限定のグルメ販売やフォトスポットも設けられ、家族連れや写真愛好家にも人気を集めている。
私が訪れた日も、多くの人々が菜の花畑を背景に写真を撮りながら春のひとときを楽しんでいた。青空の下で揺れる菜の花の向こうには、伊賀ののどかな里山風景が広がり、都会では味わうことのできない穏やかな時間が流れている。
また、この菜の花は単なる景観づくりのためだけに栽培されているわけではない。伊賀市菜の花プロジェクトの一環として育てられ、収穫された菜種は地元特産の菜種油「七の花」の原料となる。さらに使用済みの油は回収され、資源循環へと活用されているという。美しい風景の背後に、地域ぐるみの環境保全と農業振興への取り組みが息づいていることを知ると、菜の花畑がいっそう輝いて見えてくる。
春風に揺れる黄金色の花々を眺めながら歩いていると、心まで明るくなるような気持ちになる。プチ菜の花フェアは、単なるイベントではなく、伊賀の自然と人々の営みが織りなす春の風物詩なのである。
| 名 称 | 菜の花フェア |
| 主催者 | 伊賀市菜の花プロジェクト推進協議会事務局 |
| 電 話 | 0595-22-9713 または 0595-47-0151 |
| 会 場 | 大山田農林業公社 前の特設会場 |
| 所在地 | 三重県伊賀市平田103 |
| 開催時間 | 例年 10:00 〜 16:00 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| アクセス | 大山田温泉さるびののすぐ目と鼻の先 |
| Link | 菜の花まつり – 伊賀上野観光協会 |
菜の花が彩る春の風景
春の訪れを告げる菜の花畑は、一面に広がる鮮やかな黄色のじゅうたんと、ほのかに漂う甘い香りが魅力である。その風景はどこか懐かしく、日本人の心に深く響く春の原風景といえるだろう。
大山田温泉さるびの周辺でも、春になると菜の花が咲き誇り、里山の穏やかな景観を鮮やかに彩る。見渡す限りの黄色い花々と、澄み切った青空とのコントラストは実に美しく、思わず足を止めて見入ってしまうほどである。風に揺れる菜の花の向こうには、伊賀の山々や田園風景が広がり、都会では味わうことのできないのどかな春の情景を楽しむことができる。
また、この菜の花畑は単なる観光資源ではない。大山田地区では、菜の花を活用した資源循環の取り組みが行われている。春に咲いた花はやがて実を結び、初夏には菜種として収穫される。その菜種から搾られた菜種油は、地元特産の「七の花」として販売され、家庭や飲食店で利用されている。
さらに、搾油後に残る油かすは畑の肥料として活用され、地域によっては使用済みの食用油を回収して再利用する取り組みも進められている。美しい花を咲かせて人々を楽しませるだけでなく、食を支え、農地を育み、環境にも貢献する。菜の花はまさに循環型社会の象徴ともいえる存在なのである。
菜の花畑を歩いていると、春風に揺れる黄色い花々のさざ波がどこまでも続いているように見える。耳を澄ませば鳥のさえずりが聞こえ、頬をなでる風には土の匂いが混じる。そんな穏やかな自然の営みに触れていると、忙しい日常を忘れ、心がゆっくりとほぐれていくのを感じた。
プチ菜の花フェアの魅力は、単に美しい花を眺めることだけではない。その風景の背景にある地域の人々の努力や自然との共生を知ることで、菜の花畑はさらに味わい深いものとなる。春の伊賀の里山には、目に見える美しさとともに、人と自然が育んできた温かな物語が息づいているのである。
さるびの温泉でくつろぐ
菜の花畑をゆっくり散策した後は、「伊賀の国 大山田温泉 さるびの」で心と体を癒やす時間である。春風の中を歩いた後に味わう温泉は格別で、まさにこの旅の楽しみのひとつといえる。
浴場には趣の異なるさまざまな湯船が用意されている。木々に囲まれた露天風呂では、やわらかな風を感じながらのんびりと湯に浸かることができる。酒樽を利用した樽風呂も人気で、伊賀ならではの風情を味わえるのが楽しい。湯面に映る空を眺めながら身を委ねていると、日頃の疲れがゆっくりとほどけていくようであった。
泉質は肌あたりがやわらかく、湯上がりには肌がしっとりとなめらかになる。菜の花畑を歩いて少し疲れた足も温泉のおかげで軽くなり、体の芯から温まってくるのを感じた。
入浴後は館内の休憩スペースへ向かう。畳敷きの空間で横になりながら窓の外を眺めると、伊賀の山並みや里山の風景が広がっている。静かな時間の流れに身を任せていると、慌ただしい日常から離れ、心までゆったりとしてくる。
さらに館内には有料の和室個室も用意されている。家族や仲間同士で利用すれば、周囲を気にすることなく思い思いの時間を過ごせる。湯上がりに横になってひと休みしたり、お弁当や軽食を囲んで語らったりするのも楽しみ方のひとつである。
温泉に入り、美しい春の風景を思い返しながら静かにくつろぐ。その時間は単なる休憩ではなく、旅そのものを味わうための大切なひとときである。菜の花と里山の風景、そして温泉のぬくもり。大山田温泉さるびのには、心をゆるやかに解きほぐしてくれる春の時間が流れていた。
伊賀の里山に感じる春の息吹
四方を山々に囲まれた伊賀盆地の春は、冬の静けさから一転して、生命の息吹に満ちた季節を迎える。厳しい寒さを越えた自然が一斉に目覚めるこの時期には、山々の彩り、人々の営み、清らかな水の流れが美しく調和し、伊賀ならではの豊かな春の風景をつくり出している。
大山田地区をはじめとする伊賀の里山では、春になると桜や菜の花が咲き誇り、地域全体が華やかな色彩に包まれる。服部川や木津川水系の流れに沿って続く里山では、薄紅色の桜と鮮やかな菜の花が競うように咲き、人々の目を楽しませてくれる。冬の間は落ち着いた色合いだった風景が、春の訪れとともに一気に明るさを増していく様子は実に印象的である。
周囲を取り囲む山々では、クヌギやコナラなどの広葉樹が芽吹き始め、淡い若葉色が徐々に斜面を染めていく。その景色は濃淡さまざまな緑のグラデーションとなり、見る人に春の深まりを感じさせる。山間を流れる川には清らかな水が満ち、水面には青空や新緑が映り込む。そんな穏やかな風景の中を歩いていると、自然の営みの力強さと優しさを改めて実感する。
また、伊賀の春は農作業が本格的に始まる季節でもある。田畑では耕運機やトラクターが動き始め、人々は田植えの準備に忙しくなる。水が張られた田んぼは鏡のように空や山々を映し出し、夕暮れには里山ならではの幻想的な景色を見せてくれる。
耳を澄ませば、鳥たちのさえずりが聞こえ、川のせせらぎが静かに響く。日が傾く頃には、田んぼや水路からカエルの声が聞こえ始め、里山に春が訪れたことを実感させてくれる。こうした何気ない自然の音や風景こそが、伊賀の春の魅力なのかもしれない。
大山田温泉さるびの周辺を歩いていると、菜の花畑の鮮やかな黄色だけでなく、芽吹いたばかりの若葉、水辺のきらめき、農作業に励む人々の姿など、里山に息づく春の気配を随所に感じることができる。そこには観光地として整えられた景色とは異なる、地域の暮らしと自然が長い年月をかけて育んできた本物の春の風景が広がっているのである。
家族連れで楽しめる魅力
プチ菜の花フェアの魅力は、美しい花を眺めるだけではない。子どもから大人まで一緒になって楽しめる工夫が随所に用意されていることも、このイベントが親しまれている理由のひとつである。
一面に広がる大山田の菜の花畑は、子どもたちの目線から見ると、まるで黄色い迷路のようだ。背丈ほどに育った菜の花に囲まれながら歩けば、まるで物語の世界へ迷い込んだような気分になる。会場に設けられた「菜の花ドア」は特に人気のフォトスポットで、ドアの向こうに広がる黄金色の花畑は、まるで絵本やアニメのワンシーンのような光景である。家族の記念写真を撮るには絶好の場所といえるだろう。
また、都会のお花見スポットのような混雑が少なく、のびのびと過ごせるのも大山田ならではの魅力である。広々とした里山の空間の中では、子どもたちが元気にはしゃいでいても過度に気を遣う必要がない。春風を感じながら歩き回ったり、菜の花を眺めたり、生きものを探したりと、自然そのものが格好の遊び場になる。
さらに、さるびのには温泉や直売所、お食事処などが併設されているため、菜の花畑を楽しんだ後も家族でゆったりと過ごすことができる。温泉で汗を流し、地元の食材を使った料理を味わい、お土産を選ぶ。そんな一日の過ごし方ができるのも、この施設の大きな魅力である。
春の里山には、子どもたちにとって新しい発見があふれている。菜の花の香り、鳥のさえずり、頬をなでるやさしい風。自然の中で五感を使って過ごす時間は、大人にとっては心を癒やすひとときとなり、子どもたちにとっては忘れられない春の思い出となるだろう。
大山田温泉さるびののプチ菜の花フェアは、花を愛でるだけのイベントではない。家族みんながそれぞれの楽しみ方を見つけ、春の一日をゆったりと分かち合える、そんな温かな魅力に満ちた場所なのである。
春を見つける小さな旅
大山田温泉さるびのを訪れる楽しみは、菜の花畑や温泉だけではない。その道中にも、伊賀の里山ならではの春の風景が数多く広がっている。
4月になると、田植えの準備が始まった田んぼには水が張られ、まるで天然の鏡のような光景が現れる。風のない日には、水面に青空や白い雲、そして周囲の桜並木が映り込み、本物と見紛うほど美しい景色を見せてくれる。車を走らせながらふと目にした水田の輝きに、思わず足を止めたくなることも少なくない。
また、伊賀市丸柱地区へ足を延ばせば、日本六古窯のひとつとして知られる伊賀焼の里が広がる。昔ながらの登り窯から立ち上る煙が春の柔らかな陽光に溶け込み、どこか懐かしい情景をつくり出している。華やかな観光地とは異なるが、そこには長い年月をかけて受け継がれてきた里山の暮らしの息遣いが感じられる。
さらに、さるびのの直売所「そうぞの館」を訪れるのも楽しみのひとつである。店内には地元で採れた新鮮な野菜をはじめ、季節の山菜や手作りの加工品が並び、里山の豊かさを実感できる。よもぎ餅や山菜など、春ならではの味覚との出会いは、小さな旅ならではの喜びである。
こうした何気ない風景や人々の営みに触れていると、旅の本当の魅力は有名な観光名所を巡ることだけではないと改めて感じる。田んぼに映る空を眺め、窯場の煙に郷愁を覚え、直売所で旬の味覚を手に取る。そんなささやかな体験の積み重ねが、心を豊かにしてくれるのである。
春の柔らかな光に包まれた伊賀の里山は、ただ車窓を眺めているだけでも心がほぐれていく。目的地を急がず、気になった場所で車を停め、春の気配を探しながら巡る旅もまた楽しい。
私たちシニア世代にとって、このような里山への小さな旅は、失われつつある日本の原風景と再会する時間でもある。カメラを片手に菜の花や桜を追いかけながら、ゆっくりと春を探して歩く。その贅沢な時間こそが、大山田温泉さるびので出会った何よりの土産だったように思う。
◆ あとがき
大山田温泉さるびのを訪れる旅は、決して大がかりなものではない。
一面に咲く菜の花を眺め、里山を吹き抜ける春風に耳を澄ませ、温泉でゆっくりと体を休める。ただそれだけの一日である。
しかし、そんな何気ない時間だからこそ心に残るものがある。
菜の花畑の向こうに広がる山並み、田んぼに映る空、直売所に並ぶ季節の味覚、そして地域の人々が守り育ててきた暮らしの風景。そこには都会ではなかなか出会えない、ゆったりとした時間の流れがあった。
年齢を重ねるにつれ、遠くの名所を巡る旅だけが旅ではないことに気づかされる。身近な地域に目を向ければ、まだ知らない景色や文化、人との出会いが数多く残されている。
プチ菜の花フェアは、そんな小さな発見を与えてくれる春の催しであった。
もし春の休日にどこかへ出かけたくなったなら、ぜひ伊賀の里山を訪ねてみてほしい。菜の花の黄色と温泉のぬくもりが、きっと心を優しくほぐしてくれるだろう。
私もまた来年の春、この菜の花畑を訪れ、伊賀の里山に帰ってきたような穏やかな気持ちを味わいたいと思う。春は毎年巡ってくる。それでも、その年ごとに違った表情を見せてくれることが、旅の楽しみなのである。